いよいよ、シーズン3序盤から伏線を貼ってきた、コリン・ヒューズのカミングアウトエピソード。コメディドラマの中で、センシティブなテーマを扱うのは、扱い方次第でドラマ全体が台無しになってしまうリスクもあると思いますが、そこはさすが信頼の「テッド・ラッソ」。名セリフ続出の、すばらしいエピソードでした。
【ここまでの流れ】
コリン・ヒューズは、自分がゲイであることをチームにはずっと隠してきましたが(知っているのは登場人物で記者のトレント・クリムだけ)、前話の第8話で、キャプテンのアイザックに知られてしまいます。
それ以降、アイザックはあからさまにヒューズを避けるそぶりを見せ始めますが…
ロイにダメ出しする、レベッカの名たとえ
本題に入る前に、序盤での激おこレベッカの名言を。
テッドの代役として、試合前の会見を頼まれて承諾していたロイですが、無断で欠席してしまいます。それに激怒したオーナーのレベッカの、ロイに対して言い放った例えが秀逸でした。
「それがあなたの人生なの?つまらないことや難しいことからただ逃げ続けるのが?望みは何なのよロイ。もっと多くを望んでいるはずよ。自分にはステキな人生はふさわしくないって思いこんで、まずいスープを飲んでおいて、『足りない』って嘆いているわけ。いい加減ビシッとしなさいよ。あなたの『俺ってかわいそう』って態度を見てると、すっごくイライラしてくる」
一方で、ロイが欠席したせいで(おかげで)、会見場で巻き起こったギタリスト論争は楽しかったですね。
ハーフタイムのロッカールームでのテッドの包容力
本題に戻ります!試合になっても関係がよくないコリンとアイザック。
1点リードされた前半終了後、アイザックがスタジアムのサポーターの暴言に激高し、スタンドに飛び込んでそのサポーターと乱闘をし退場になってしまいます。
アイザックがブチ切れたサポーターの暴言、それは「腐った男」という、ゲイを揶揄する言葉でした。
ハーフタイムのロッカールームで、それを聞いたチームメイトたちは、アイザックがゲイだから怒ったのでは?と推測する中、コリンがついにゲイなのは自分だ、とカミングアウトします。
それを聞いたチームメイトたちが、コリンをフォローしようと「ゲイでも気にしないよ」と口にする中、テッドは「気にするよ」と言います。
ここからのテッドの言葉が、本当に素敵でした。
「みんな、(コリンのことを)気にするよ。気にかけてる。コリンのことも、これから経験することも。でもこれからは、君一人で抱え込まなくていいっていうこと。」
アメフトファンの友だちとのちょっとわかりにくい経験談を交えながら、コリンがゲイであることを「気にしない」ではなく、ゲイであることで、これからコリンが経験するかもしれない辛いことも、「気にかけて、チームのみんなでサポートする」ことを伝えるテッド。テッドの優しさと包容力が詰まった言葉でした。
確かに、もし自分が友だちにカミングアウトされたときのことを想像すると、最初のチームメイトのように「大丈夫。気にしないよ。」っていう自分視点の反応してしまうかなって思いました。テッドのように相手を思いやって「サポートする」という気持ち大事にしたいですね。
あらゆるファンベースに通じるロイの会見での言葉
ハーフタイムのロッカールームで十分感動だったのですが、ロイの試合後の会見が、その感動をさらに増してくれました。
序盤では会見をすっぽかしたロイですが、試合後の会見は自分からテッドの代わりに会見に臨みます。記者から、スタンドで暴れたアイザックについてクラブとして許容するかと聞かれて、自身のある経験も交えて話した言葉が、サッカーファンとしても、そのほかあらゆるジャンルのファンにとっても、刺さる、肝に銘じておきたい言葉だったと思います。
「世の中には、チケットを買えば、選手にどんなひどいことを言っても許されると思っている奴もいるが、サッカー選手だって人間なんだよ。
そして誰にも、他人の人生のことはわからない。だからアイザックが今日やらかしたことが、間違いだとしても、俺は味方する。
なんであんなことをしたのかは、俺には関係のないことだ。」
ロイ・ケントにしかできない、見事な会見でした。
何かを応援していると、つい応援している人から失望させられるような言動があったりすると、勝手にいろいろ想像して批判しがちになってしまうのですが、その人が「なぜそんな言動をしたのか?」はその人しかわからないんですよね。もしかしたらその陰で、ものすごく辛いことがあったのかもしれない、そういう視点を大事にしたいと思いました。
シンクロするネイトの物語
コリンのエピソードに呼応するように、ネイトの物語もハーモニーを奏でます。
ウエストハムの監督に就任以降、マッチョオーナーのルパートにあわせて、無理して強がってマッチョなふりをしていたネイサンですが、ついに、自らその船を降ります。
ルパートに「男2人での男子会を」と誘われて行ったバーには、ゴージャスな高身長の女性が2人。結局ルパードは女性たちと遊ぶためにネイトを誘ったのでした。これまでは、オーナーの誘いには無理してでも笑顔で付き合ってきたネイトですが、ここでついにルパートに付き合わず帰ることにします。
ネイトが「帰る」と言った後の、ルパートの「悪」を凝縮したような表情が恐ろしかったです。オーナーの自分に従わない怒りとネイトへの蔑みを一瞬で表現する名演でした。「悪い人がいない」テッド・ラッソの世界の中で、ルパートは数少ない圧倒的な悪役ですね。
ルパートの誘いを断った後、恋人ジェイドのもとに戻り、やさしくハグするネイト。
無理してつけていた鎧を捨てて、大切な人のもとへ戻り、本来の自分に戻る、名シーンでしたね。
第9話のテーマは、「『男は男らしく』の呪縛を解き、ほんとうの自分を大切に」なのかなと感じました。
コリンのエピソードとネイトのエピソードがシンクロして、メッセージがより浮き彫りになる、見事な脚本・演出だったと思います。