このドラマにしては珍しく、サッカーのドラマらしい、サッカーにまつわるシーンが多めなエピソードでした。
リッチモンドもいよいよ、というか、ようやく復活へのきっかけをつかみそうです。
リッチモンド トータル・フットボールを目指す
6話のラスト、アムステルダムで新しい戦術を閃いたテッド(実際は1970年代にクライフが発明したトータル・フットボールでしたが)は、さっそくトータル・フットボールを、シーズン途中に取り入れて試合に臨もうとします。
実際のサッカーでは、シーズン途中にいきなり新しい戦術を取り入れるのは、自爆行為にも思えますが、果たしてうまくいくのか?でも現実世界でも、シーズン途中の監督交代が劇薬になって全く違うサッカーし始めて好転したりすることがありますね。
トータル・フットボールをチームに落とし込むためのトレーニングのシーンがユニークで楽しかったです。
選手たちをいつもと違うポジションでプレーさせることで、他のポジションについて体で理解させたり、赤い糸を選手たちの大事なナニに結んで紅白戦をすることで、周りの選手の動き・距離感を痛みをもって意識させたりと、実際に存在するトレーニングなのかはわかりませんが、狙いが明確で、なんだか効果ありそうに思えるところがすごいです。
サッカーの戦術の話になるとドラマが難しくなってしまいそうなところですが、わかりやすいデフォルメのしかたが見事でした。かといってサッカー好きが見ても違和感なく楽しめるデフォルメのしかただったと思います。
上がり続けるジェイミーの好感度
とはいえ、トータル・フットボールに取り組んで初戦のアーセナル戦では、前半で3失点といいところなし。一朝一夕には結果出ませんよね。
その流れを変えたのは、ストライカーのジェイミー。
ハーフタイムに、「トータル・フットボールを機能させるためには、自分がフォワードの位置にいるのではなく、ミッドフィルダーの位置にいて、ボールを自分を経由させてほかの選手が前に行くべきだ」と発言します。
シーズン1では典型的な自己中ストライカーで、自分が自分がとゴールを決めたがっていたジェイミーが、黒子的な潤滑油になってチームを機能させようとする発言。ジェイミーの人間的な成長がここでも発揮されました。
アーセナルとの試合は完敗だったものの、後半にトータル・フットボールの可能性を感じさせる美しいゴールでの1点を決めます。未来への“兆し”になるゴールでしたね。
サムがSNSで思わぬトラブルに
7話の主人公は、サム・オビサニア。出身のナイジェリア料理のレストラン開店間近で順風満帆なところで、SNSで思わぬトラブルに遭遇してしまいます。
ことの発端は、イギリスの内務大臣が会見で、イギリスへの亡命を望む難民ボートを追い返そうとする発言をしたことでした。それを聞いたナイジェリア出身のサムは、自身のSNSで、大臣の道徳心に訴え、考えを改めることを望む投稿をします。
ところが、その投稿に対しての大臣の反応は
「政治に口を出さずボールを蹴ってなさい」
そしてオープン直前だったサムのレストランは、心ない人々(この文脈だと移民反対の過激な愛国主義者)に荒らされてしまい、開店直前だった店内はひどいありさまに。
いつも陽気でチームを明るくするサムが、ロッカールームで自暴自棄なようすは、見ていてつらかったです。
移民問題とは多少ずれますが、現実のイングランドのプレミアリーグでも、たびたびスタンドからの人種差別的なヤジが問題になり、試合開始前に選手たちが人種差別への反対の意思を示す膝立てポーズをしているだけに、サムが見舞われたトラブルは、現実世界で起こっていてもおかしくないリアル感があり、胸が苦しくなりました。
そしてもう一つ、日本でもよく話題になる、スポーツ選手や歌手など有名人の政治的発言の是非、という側面もありましたね。
基本的にコメディドラマのスタンスでありながら、さらっと社会問題を核心を突く形で盛り込んでくるのが、「テッド・ラッソ」の油断できないところ。コメディとのコントラストで、深刻なテーマが一層刺さる気がします。
「トータル・フットボール」の最高すぎる伏線回収
ラストの展開が最高すぎました!
サムが、ナイジェリアからやってきた父親に、荒らされた店を見せたくないと思いながら案内すると…
そこには、店の修復作業をするチームメイトたち。
サムを驚かせようと、内緒で協力していたのでした。
ジェイミー「考えてみたんだ。今、何が必要かって。」「それで君を助けに来た。」
サッカーのほうのテーマだった、互いを支えあう「トータル・フットボール」が、サムの店で実現するという、グッとくる展開。
今回、トータル・フットボールをだいぶ丁寧に描くなあと思っていたのは、まさにこのラストのためだったのか!と、サッカーのエピソードとプライベート(社会問題)のエピソードが、見事にシンクロして収束する、すばらしい伏線回収にカタルシスを感じました。
「テッド・ラッソ」ここに来ての6話、7話の展開はちょっと神がかっているなと感じます。